<Artist Interview vol.3> CANCERによる未来のための“無鉄砲な戦略” – 後編 2018年6月8日より EUKARYOTEにてアート・オーガニゼーション「CANCER」初の展覧会を開催

22 Jun 2018

前回まで、CANCERの概要とメンバーについて話を伺った。
その続編にて、CANCERの未来と今後の展望について引き続き花房氏と斉藤氏に話を伺う。

4.CANCERが提案する未来


 
K: CANCERの今後のプランについては?
花房: まず一つが「皇居ラピュタ化計画/Palace in the sky」です。

<PALACE IN THE SKY>
 
K: -いきなりで失礼ですけど、どういうことですか(笑)。

花房: 実はこれを考えついたのはオリンピックです。オリンピックでは象徴的な建築物を作ろうという動きがありますが、やはり日本は天皇の国だと思うんです。しかも皇居なら宮崎駿的な世界観も実現できるんじゃないかと。あくまで想像ですが、皇居の三種の神器とともに飛行石みたいなものがあって、それに「リーテ・ラトバリタウルス・アルアロス・バル・ネトリール」って唱えると皇居が浮くんじゃないかと。ラピュタってロマンチックだし、象徴としてもいい。そして、ラピュタの下にはパブリックスペースを作る。そこは社会的な弱者が住むような公共の空間をつくる。皇居の下で守られているから一番安全です。また、今は皇居を避けて鉄道が走っているけど、浮いてしまえば、ど真ん中を走ることができる。また、皇居の下を森にすれば、ヒートアイランド現象も解決する。現代の問題はすべて解決です。

K: なるほど。確かにこれはあらゆる問題を解決してくれそうですね。

花房: 実は、ラピュタは技術的には実現していて、地震対策で強力な磁力を使って地面を浮かすという計画がある。だから、町単位くらいならできるんじゃないかな。でもこの絵だと結構浮いているけどね。

K: 結構浮いてますよね(笑)。ビルよりも高いじゃないですか。

花房: いやビルどころじゃない、どこからでも見えるんですよ。スカイツリーよりも高いです。ラピュタって、英語でいうと「Castle in the sky」。皇居だから、「Palace in the sky」っていう名前にしたんです。

K: でも、ある意味ラピュタって結末は悲しいですよね。

花房: そうですね、でもそうなったせいなのはラピュタ人のせいだから。われわれはラピュタ人にはならない。ラピュタ人になる可能性があるのは、皇居で仕事をしなければならない宮内庁の人かな。彼らには気を付けなくてはいけない。

K: もし天皇が上がりたくない、と仰ったら?

花房: 天皇にも人権がありますからね。上がりたくないと仰ったら、居住の自由を認めるべきですね。でも、ぼくは天皇を信じたい。ラピュタの存在を信じるように、ラピュタ化計画の実現を信じるように。ゆくゆくはこのラピュタが象徴になる。憲法も「象徴天皇制」ではなく、「象徴ラピュタ制」になる。

K: 一般参賀とかどうなりますかね?

花房: 降りてきてくれると思いますよ。

K: 「TOMB FOR THE ARTS《アートのための墓》」とは何ですか?

花房: 日本は山や土地が余っているので山を一つ購入し、最後ぼくらが隠居するときは古墳に住むんです。アーティストもここに住むことができて、死んだら骨を埋めてアーティストの公共の墓にできる。アーティストは誰でも入れるし、美術館を造ってもいい。つまりここは聖地です。しかも自然の地形だから、キャンバスやパネルに比べて圧倒的に長く残るんですよね。ここに来れば、有名アーティストの墓参りが一度にできてしまう上に、場合によっては作品まで見れてしまう。

K: 先ほどの家族とも通ずる物がありますね。自然が豊富なのもラピュタと共通しますしね。何か人知を超えた永続性のようなものを感じる。

花房: これはいいでしょ。これは絶対やるべきだと思いますよ。

K:確かに古墳ってなんかいいですね。なぜでしょう。神秘的で惹かれるものがある。
でも、なかなか実現するに課題がありそうですよね。
-そもそもなぜ、「ラピュタ」や「古墳」など、こうした一見無謀とも思えるような奇抜なアイディアを計画しているんですか?

花房: 奇抜だとは思っていません。自然に考えた結果が無謀に見えるだけです。これらのアイディアが無謀に見えるとしたら、そう考えてしまう人のほうが間違っているだけです

「パースペクティブ(=遠近法)」というのが開発されておよそ500年くらいですよね。たった500年でこれだけの影響力を持つことは凄いのですが、その500年間“世界の捉え方”は何にも変わっていないとも言えます。
ルネサンス以前には、別の空間認識があった。ぼくはそれを取り戻したい。それは東洋や日本に限ったことではなく世界を変える必要があると思います。

K: なるほど。世界認識が変わったら…例えば建築とか大きく変わりそうですよね。

花房: 変わりますね。車とかも変わる。人の歩き方とかも多分変わるでしょう。

K: そもそも身体しかなかった時代、どういうパースペクティブ、空間認識だったのかって大きく今とは異なりそうです。うまく想像できないですけど。

花房: 今でもぼくたちには身体しかない。例えば、ネアンデルタールとホモサピエンスで考え方は違ったはずですよ。
例えば、指がもう1本あったら、このコップの形は違う形になっていたはずです。
だから、これはそもそもアート作品そのものがどうかとか、絵画とか彫刻とかそういう議論ではない。我々はもっと広い視野で物事を考えなくてはならない。これは、いわゆるアートの領域を超えているんです今ある常識を全部疑って正反対の方向から考える。ぼくらは、そういうことを考えていかなくてはならない。

また、もう一つ我々が東洋の人間であるということを強く意識しいています。


<(A) ROOM FOR MEDITATIONAL BODY 《瞑想する身体のための部屋》>

K: CANCERのWebサイトには「西洋のファイン・アートを東洋的身体によって突き崩し、ルネサンス以来の新たなパースペクティブを獲得することを目指す」とありました。東洋にフォーカスした理由は?そしてなぜ日本ではなくグローバルを目指すのですか?

花房: そもそもファイン・アートは欧米のものです。もちろん日本にも教育機関もありますし、アートに携わる方は多くいらっしゃいます。そうは言っても、日本は辺境です。しかし、我々も誇りをもってアートをやっていますから、辺境として見られることに対する怒りもあります。
アートに関して我々が今まで引き継いでいるものは、西洋の文脈の上に成り立っている。この西洋の文脈に凝り固まっているという現状からは何も新しいものは生まれない。だから壊さなくてはならない。
しかしなぜ、「東洋的身体」という言葉を使って、偏見を受け入れるような発言をするのかというと、それ以外の方法で彼らを説得する方法はないからです。
もしも欧米のやり方を押し付けられたら、「オレらの方が面白い」といって反発するのがアートの仕事だし、それが許されるのがアートだと思います。最低辺にいる人が王様と並ぶことができる、それがアートなんです。その戦略としてCANCERでは東洋というものを積極的に引き受けていきたいと考えています。

5.斉藤有吾の斉藤有吾による斉藤有吾のためのCANCER展

K: 有吾さん、今新宿二丁目のBAR星男では、サテライト展を行っているそうですね。『斉藤有吾の斉藤有吾による斉藤有吾のためのCANCER展』とはどんな展示ですか?

斉藤: BAR星男での展示は、現在ユーカリオで開催中のCANCER展のためのドローイングやメモ、過去作の写真や、ぬちゃーっとした立体作品や映像作品等を展示しています。

また、CANCERメンバーが作った作品や作ってきた作品や、荒川修作の「世界には3つしかない。同じ、違う、似てる。」という言葉から考えさせられたことを言葉にして、店内に書きなぐっています。

あと、高校二年生の夏に私が生まれて初めて読んだマンガ以外の本(小説)を展示しています。今ではとても簡単に思える漢字に読み仮名や意味がぎっしり書き込まれていて、その書き込み作業は、私に急激な変化をもたらしました。見せられても困るかもしれませんが、展示してます。

K: タイトルの意図は?

斉藤: タイトルの意図は、本当に本当の意図は個人的なものなので、言えません。しかし例えば、私とアナタとの関係を誰が決めるのか?私とアナタとが決めるのか?他の誰かが決めるのか?法律か?倫理か?マナーか?噂話か?TV番組のコメンテーターか?学校の先生か?親か?もしも私とアナタと以外の誰かに決めさせるなら、笑顔で喜んで子供を戦地に送り出す親でなければならなかったマナーと、子が親を密告するような密告と連帯責任の五人組の歴史を参照して、それでも、どうするのか?と問いかけるのも悪くないかもしれません、このタイトルが。

また、「Government of the people, by the people, for the people」という言葉を想起するはずですが、その「people」という言葉の定義から、人種や国籍や出自や所得や学歴やIQや年齢などの如何によって排除される人がいなくなりますように祈りを込めることも出来るかもしれません。

しかし、そのような問いかけや祈りを受け取る人には、既に必要のない説教になってしまう気がします。正直、それが何らかの改善に繋がるとは考え難い。だから私は、先ずはパンツを捨て、ノーパンで街へ出ようと思うのです。

K: なるほど。確かに混沌とした空間が作られていました。また、会期中展示された金色の紙に書かれる文字は書き足されたりなどして、常に変化するとのこと。まさに、この空間にいることは、まさに流動的である有吾さんの思考の中に身を置いているに等しいのではと感じます。変化する生の思考を目の当たりにできるのは興味深いです。ユーカリオとBAR星男、そのふたつを回遊すれば、CANCERがこれからはじめようとしていること、その一端に触れることができる気がしますね。これからの活躍から目が離せません。お二人ともありがとうございました。

彼らの考えていることは、あまりにも唐突で不可思議だ。
読者の中には思考回路が理解できない、という拒否反応すら示す人もいるかもしれない。

しかし、もしかしたら我々はいつの間にか目に見えない眼鏡をかけて世界を見ている、そうは考えられないだろうか?
これまで学んできたことや経験してきたことは、本当に正しかったのだろうか?
常識だと思っていたことは、本当にそれだけしか正解がないのだろうか?
世界認識そのものを根底から疑ってみるということは、どこか悪くない気もする。

もしかしたら、私は迷信的に彼らの言うことを信じすぎているかもしれない。
確かにそうかもしれないが、それでも彼らのような人がいるお陰で、世界は均衡しているのではないかと思う。

CANCER Webサイト
http://cancer-art.org/

2016年、美術批評家・花房太一の呼ひ゛かけて゛、アーティストの有賀慎吾、伊東宣明、須賀悠介、村山悟郎、Houxo Queと共に、パートナーに斉藤有吾を迎えて結成。西洋のファイン・アートを東洋的身体によって突き崩し、ルネッサンス以来の新たなハ゜ースヘ゜クティフ゛を獲得することを目指す、歴史上初のアート・オーカ゛ニセ゛ーション。旧来のファイン・アートを制作するた゛けて゛なく、皇居ラヒ゜ュタ化計画、古墳フ゜ロシ゛ェクトなと゛、いまある世界とは別の世界を創造するプロジェクトか゛多数進行中。
本展覧会”THE MECHANISM OF RESEMBLING”が初の展示となる。

“CANCER” is the art organization founded by Taichi Hanafusa with 5 artists, Shingo Aruga, Nobuaki Itoh, Yusuke Suga, Goro Murayam, Houxo Que, and Yugo Sito as a partner. It is the first art organization in history to break Western fine art by Eastern body to architect new perspectives since the Renaissance. Many projects, such as “Palace in the Sky,” “(A) Room for Meditational Body” and “Tomb for the Arts” are in progress that will create another world different from this present world in addition to make traditional fine arts.

花房太一
Taichi HANAFUSA (CANCER Founder / Art Critic)
1983年岡山県生まれ、橘今保育園、岡山市立西小学校、岡山大学教育学部附属中学校、岡山県立岡山大安寺高等学校、慶應義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院(文化資源学)修了。アートオーガニゼーションCANCER・ファウンダー、牛窓・亜細亜藝術交流祭・総合ディレクター、S-HOUSEミュージアム・アートディレクター。その他、108回の連続展示企画「失敗工房」、ネット番組「hanapusaTV」、飯盛希との批評家ユニット「東京不道徳批評」など、従来の美術批評家の枠にとどまらない多様な活動を展開。
個人ウェブサイト:hanapusa.com

■斉藤有吾
Yugo SAITO(CANCER Partner)
1981年 1月10日 東京生まれ
↓主な企画
2014年11月24日~27日 『最後かもしれないだろ』コーディネーター:斉藤有吾 Nam Gallery(東京)
2014年12月1日~4日 『It is no use crying over split milk.』コーディネーター:斉藤有吾 Nam Gallery(東京)
2015年2月7日『ART BATTLE ROYALEⅡ?第二次藝術大戦?』プロデューサー:斉藤有吾 Nam Gallery(東京)
2015年2月10日~19日『10-36 ~10-34sec』作家:有賀慎吾、川久保ジョイ、須賀悠介、関真奈美、永岡大輔 / キュレーター:花房太一 / コーディネーター:斉藤有吾 Nam Gallery(東京)
2015年2月20日『「差別」を前程に、「偏見」から始めましょう』司会:ヴィヴィアン佐藤 / 出演:水嶋かおりん、Barbara Darling / 企画:斉藤有吾 Nam Gallery(東京)

■CANCER「THE MECHANISM OF RESEMBLING」
2018/06/08 – 2018/07/01
EUKARYOTE
東京都渋谷区神宮前3-41-3
Gallery 12:00-19:00
http://eukaryote.jp/
2018年に東京の神宮前に設立したアートスペース。
美術の発生より紡ぎ続けてきた現代の有形無形、その本質であり、普遍的な価値を持つ作品や作家を積極的に取り上げ、残している。

《イベント》
・6/22(Fri)19:00~ 村山悟郎×花房太一
・6/23(Sat)19:00~ Houxo Que×花房太一
・6/29(Fri)20:00〜小林康夫+CANCER
Fee: 2,000円(学生1,500円、中学生以下無料)
Place: on Sundays(ワタリウム美術館地下)
・7/1(Sun)19:00~ 伊東宣明×花房太一

『斉藤有吾の斉藤有吾による斉藤有吾のためのCANCER展』
2018/6/15~6/27
BAR 星男
〒160-0022 東京都 新宿区新宿2-6-8 小沢ビル
お節介ツアー:6/23(Sat)20:00~
※イベントに関する詳細はFacebookイベントページをご覧ください。
>>Facebookイベントページ

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