Art Basel Hong Kong #3

29 Apr 2018

Art Basel 香港のレポート第三弾として、
Art Baselの会場に目線を映し、日本のギャラリーを紹介します。

Art Baselの会場内では、いくつかのカテゴリーでブースが編集されていました。

1.Insights アジアにフォーカスしたブース
2.Discover 新しいギャラリーやアーティスト
3.Encounter インスタレーション空間
4.Kabinett 歴史のあるギャラリー・ショーケースによる個展や選抜型の展覧会形式

この中でも一番興味深かったのは、『Discover』です。

Discoverブースでは、個展形式で新作を展示することが条件になっています。
新しい作家を中心にしているので、今まで見たことのないような新進気鋭のアーティスト(といっても私にとってはDiscoverブースではなくてもほとんどが今まで出会ったことのないアーティストの作品ばかりなのですが)の作品に出会えるブースになっています。

その中には日本のギャラリーもいくつか出展しており、中でも特に興味深かったのは[URANO]のブース。
[URANO]が展示していたのは「パープルーム予備校」の「梅津庸一」の作品です。


<URANO>

[URANO]は東京天王洲のTERRADA ART COMPLEXの3階にスペースを構えるギャラリー。

また、パープルーム予備校とは、梅津庸一により彼の自宅を拡張する形で開校された予備校。
全国からSNSを通じて学生があつまり、ある種混沌とした活動を行っており、
一言ではとても説明しにくくもあります。

梅津庸一はそのパープルーム予備校の発起人であり、アーティストです。

アーティストである彼の作品と活動からは、美術や芸術活動をとても愛していていることが伺え、
歴史上のアーティストの作品にインスピレーションを受けたり、
それそのもののオマージュといえるような作品を数多く発表しています。


<Yoichi Umetsu 「Wisdom, Impression, Sentiment – what if an individual occurrences repeats lineage generation 2018>

こちらの作品は梅津の代表作である、黒田清輝の「智感情」にインスピレーションを得た作品。
黒田清輝の「智感情」は、1987年に第二回白馬会展によって発表されました。
その当時黒田氏は「絵画に印象派理想派写実派の三者あること端もなく氏の駆りて印象即ち『感』なるものを何者にも妨げられざる裸体画よりて円満に表示せんと企てしまたるならんか、日本人を『モデル』にすたる裸体画は之を以って嚆矢となす」と語っていたとのこと。
参考: e-国宝

黒田清輝は西洋絵画の裸婦像を日本で根付かせようしていましたが、
そもそも裸婦画に対してなじみのないどころか、警察沙汰になってしまう日本では
定着が難しかったといわれています。

梅津の活動は、そうした黒田の姿とも重なる部分があると感じます。

会場でお話を伺ったところ、URANOは初日で大きな作品がすべて完売する等、日本とは違う動きをするようでした。

Discoverでは、作品は新しく、深みがあり、これから伸びしろがあるものが選ばれます。
伸びしろがあるといっても未熟なものではありません。
圧倒的な存在感でその可能性を感じるものに買い手がつきます。

なお、ギャラリーは通常、在庫に余裕を持っているので、売れてしまい展示に穴があくということはないようにしています。
そのため、ギャラリーによっては次の日に行ったときには違う作品が展示されているということはよくあります。
ギャラリーは作品が売れた場合、その日の夜に展示の入れ替えをします。
展示が次の日と前の日で変わっていることはある意味売れているということの表明でもあります。

梅津氏の作品およびパープルーム予備校のインスタレーションは、
東京青山のワタリウム美術館で行われた「恋せよ乙女!パープルーム大学と梅津庸一の構想画展」でも拝見していました。

その時からさらに抽象度合いが上がった作品になっていました。

ここでパープルーム予備校について少し詳しく。

パープルーム予備校は「SNSを通じて全国から集まった若者が共同生活を営む私塾」であり
「ネット空間から絵画空間、批評空間までを行き来する古さと新しさを併せ持つ美術の共同体「パープルーム」の活動拠点」(ワタリウム美術館 Webサイト)です。

現代の美術教育に対するある種対極的な側面を持ちつつも、
梅津の作品からは常に歴史上のアーティストの作品を追体験することを通して、
アーティストへの共感、尊敬、憧憬が感じられます。
美術や絵画への純粋な愛そのものが感じられると同時に、
パープルームという共同体のありようからも美術表現を行なうもの同士の相通ずる(あるいは彼らにも無意識の)人間愛のようなものすら感じます。

パープルーム予備校および梅津庸一氏の活動については今後も取り上げてみたいと思っています。
そのときもう少し踏み込んで洞察してみたいと思います。
どうぞお楽しみに。

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