<Cross-border Culture>
デジタル×書道
過去と未来をつなぐ書道家 佐竹燿華

02 Nov 2018

時代に調和し、拡がり、変化する「書道」の世界

あらゆる物事の境目がなくなったと言われて久しいが、それは長い時間をかけて築き上げられた揺るぎない伝統の世界でも同様であろう。歌舞伎はポップカルチャーと融合した。雅楽や和太鼓はコンテンポラリーミュージックの一つの要素にもなった。しかしこうして常に伝統は自らを更新し続けてきたからこそ、いつの時代も新鮮で新しい驚きを享受してくれる。
書道家の佐竹燿華氏が取り組むのもそんな世界。同時代の感性で生み出される、伝統に裏付けされた革新。その活動を紐解く。

K: 佐竹さんは、書道歴28年ということですね。今は書道講師をされながらご自身でも起業し、大変珍しい書道家の道を歩まれているとお聞きしたのですが、どんな活動をされているのですか?

佐竹: はい、主な活動は4つありまして、パフォーマンス、ワークショップ、書道教室、書道用品の工房への支援です。その中のワークショップと書道教室のカテゴリーとして、書道、オンライン書道、AIR SHODOU(エア書道)、ペン習字を行っています。

K: どれも気になりますね。それぞれについて教えてください。

佐竹: パフォーマンスはベトナムや台湾、日本にて、経済産業省のクールジャパン事業や平和友好、日本文化の良さを広める啓蒙活動のために行っています。

ワークショップは「筆文字の名刺作り」、「自己を見つめるオリジナルな字の作成」、「うちわ作り」などを行っています。仙台でのワークショップでは、理想の自分を考えていただき、それにあわせた字の調整、サポートをさせていただきました。なりたい自分を考えたことはなかったと自己を見つめる機会にもなり、好評でした。

また、同じく宮城県の雄勝は硯の国内生産約90%以上を占める産地ですが、東日本大震災で多大なる被害を受け、復興しているところを応援しようと、ワークショップのメンバーなどと訪れました。職人さんのお話を聞き、実際、雄勝石を使った硯やお皿、ゴルフバックにつける名札の制作や採掘場を訪れ、交流とサポートをさせていただこうと試みました。

K: ワークショップと書道教室のカテゴリーの4つのうち、オンライン書道というのはどういった活動ですか?

佐竹: オンライン書道は、通信教育のオンライン学習サービスから着想を得たものですが、オンライン上で書道の添削・指導をするという活動ですね。今はskypeで基本的に指導をしています。

K: なるほど。通信教育のオンラインバージョンですね。海外の方へのニーズは高いのではないでしょうか?

佐竹: そうですね。海外はフランスや、日本は離れた県にお住まいの方など多数いらっしゃいます。

K: AIR SHODOUというのはどんな活動ですか?

佐竹: 元々広島県でプログラマーの有志が作り上げた、空間の中に文字を書くことができる「AIR SHODOU」というプログラムがありました。台湾での書道パフォーマンスをきっかけに「空間に字を書く書道」を知ったとき、新しい革新的なことを行いたいと考えていたことにとても近いと感じました。自ら問い合わせて、AIR SHODOUを行うことになりました。


<AIR SHODOU>

スポーツ、太極拳のように体のコアを使い、空間に字を書く書道、体験した方は意外と疲れるけど、楽しいとおっしゃいます。書道を身近なものとして、こういった側面からも広められればと考えています。

K: Webサイトを拝見したのですが、とっても面白いですね!

<AIR SHODOU のWebサイトを見る>

K: ペン習字について教えてください。

佐竹: ペン習字に関しては、周囲からご要望をいただくことも多く、最近特に力を入れて行っています。

K: 通常のペン習字とは何か違うのですか?

佐竹: そうですね。通常のペン習字では、美しいお手本があってその文字の通りに美しく書く練習をしますが、私のペン習字は、その方自身が持っている良さを引き出すことを大事にしています。具体的には、書いてくださった字の良い部分を残しつつ、癖だったり、ご自身がこうなりたい、と思っているところに近づくように少しずつ調整するしていきます。そうして出来上がったその方だけの書体を、私は「オリジナルフォント」と呼んでいます。文字にも個性が表れますから、人それぞれ違うものに対して、お手本のような定型の字に当てはめるのではなくて、一人ひとりの方が「明朝体」のように「〇〇さん体」と呼べるような、その方の書体をつくりたいと考えています。

K: 「オリジナルフォント」というのはなかなか稀有な試みですね!美しいお手本の書体があると、どうも自分はその書体のようには書けない=下手、という判断をしてしまいがちですよね。私もあまり字が上手に書けない方なので、そういう認識を持ちがちでした。

佐竹: 文字というのは、その方の生き方や価値観も反映されるものです。また、どのような字を書けるようになりたいかということは、すなわちどのような人生を歩みたいかということでもあり、その方の志や生き方も反映できる可能性があるのではないかと考えているんですよね。

K: つまり、一人ひとりの人生の志や理想の姿を伺った上で、その理想に近づくように、コーチングしていくような形ということ?

佐竹: そうですね。一人ひとりの人生の志をお伺いした上で、理想の文字を書けるようにサポートさせていただいています。
字のコンプレックスを感じている方は非常に多くいらっしゃると思います。ただ、癖を全部とってしまっていい、というものではない。ですからその方のなりたい姿によっては、大きく変えなくてもいい場合もあります。変えた方が良い場合はその部分を調整させていただいています。
その方にしかない良さもあるので、その部分を調整するとさらによくなる、と思うのです。
元々の個性を活かしていきたいと思っています。この活動にはかつてウエディングプランナーだった経験が活きています。


<仙台でのワークショップの風景>

K: でも、書道界では佐竹さんのように書道を柔軟に考えられる方は、珍しいのでは?

佐竹: そうですね。私が行っているこれら4つの活動と4つのカテゴリー、同じような活動をしている人は周りにはいないですね。インターネットでも探したことがありますが、やはりまだぴったりと合致する方には出会ったことはないですね。
そもそも書道というのは長い歴史に裏付けされた伝統がありまして、技法を習得するには書家の先生に師事をして、お手本や古典を中心に学習していきます。私も書道歴28年ですが、複数の先生に師事をし、アドバイスをいただいていました。
書道は展覧会でも理解することが難しいと感じる方が多いですが、もっと親しみやすく、広めていけるものにしたいと考えています。そのことによって、書道をはじめる方が増えれば、徐々に書道用品をつくる工房や職人さんも守ることができます。新しいことを行おうとする場合その領域の中では多くの方に理解していただくには、限界があると考えました。

K: いわゆる革新とは遠いところにいるというか、その難しさを感じずにはいられないのですが…。

佐竹: そうですね。もちろん伝統は守るべきものだと思っています。ですから、その領域を守りつつ、自分の実現したいことに近づくために起業しました。

■原点

K: 今佐竹さんは書道家として起業なさっているのですよね。そもそも書道をはじめたきっかけは何ですか?

佐竹: もともと字を書くのが好きだったのですが、小学2年生の時に自宅近くに書道の先生がいらして、硬筆(ペン字)を習いはじめ、小学3年生のときに毛筆を始めまして、そこから毛筆に目覚めてずっと続けています。
他の習い事を全部やめても書道だけは続いていたぐらい、書道が大好きでした。
高校生のときにアメリカに1年留学したのですが、その間も続けていました。

今の活動につながるきっかけの一つがこのアメリカ留学時代にありました。
アイオワ州に留学していましたが、2000人いる学生の中で日本人がたった一人で珍しがられました。たくさんの人種、国籍の方がいる中で、日本とはどういう国か、どんな文化を持つのか、アイデンティティを持つことの重要さを学びました。
その留学中に「カルチャーパーティ」や絵画のクラスで書道をしたり、金閣寺の絵を描いたのです。日本の書道の文化を伝えたいなという想いがありました。
当時その場所で、日本のカルチャーが珍しかったこともあり、その金閣寺の絵が評価をいただいて、美術大学のスカラシップをいただけるということもありました。
その後、アメリカの大学に進学するか、日本の高校に戻るか決断するときになり、色々考えた結果日本に戻ってくることになったのですが、その頃の経験というのは、自分がどうあるべきか、どう生きるべきかというアイデンティティを確立する上で非常に重要な転機になったと思っています。


<アメリカ留学時代 – 金閣寺の絵とともに>

もう一つの転機としては、日本画家の故・加山又造さんの絵を観て衝撃を受けたことです。
展覧会で加山又造さんの作品に衝撃を受け、その場で弟子入りできないかと展覧会の方に問合せをした覚えがあります。
しかし既にお亡くなりになられていて、ご子息も陶芸家だったので、残念ながらその願いはかないませんでした。しかし、その時に見た衝撃というのはその後、日本画や絵を習いたいという想いへとシフトするきっかけとなりました。

加山又造さんの作品は、デザイン性が高く、均衡がとれていて、工芸的で、非常に洒落ている。当時の私には、こういう絵の世界があったのかと、とても魅力的に感じられたのです。

きっかけの3つめは、東日本大震災が起きたことです。
当時私は帝国ホテルに勤めていましたが、それを契機に自分とは何だろう、どう生きるべきだろう、と考えるようになったのです。
その時、加山又造さんの絵を思い出して、やはり絵をやってみたい、一度きりの人生ならば好きなことをやろう、という考えになりました。
その翌年、勤めていた帝国ホテルを退職しました。その後は、美術館やアートスタジオ、デジタルアートの企業で働くなど、活動の幅を広げつつ、方向性の精度を高めていきました。

ご縁があってアートスクールに書道講師として、勤務をさせていただき、現在に至ります。

そして、2016年、アートスクールの講師をしながら起業しました。
起業後の個人の活動としては、書道の魅力をオンライン書道やAIR SHODOU、オリジナルフォントといった新たな試み、自分なりの方法で伝えていきたいと考えています。

K: 絵画を学ぶために、大学にも入学されていたそうですね。日本画を習ったとか?

佐竹: そうです。京都造形芸術大学の通信教育に入学をしました。
これは、その卒業制作でつくったものです。私は屏風を作ったのですが、屏風は工芸品として捉えられていて、日本画の卒業制作としてはほとんど前例がなく先生も専門外だったようで、お手数をお掛けしましたし、結構大変でした。
この中には、平安時代の伊勢物語の「月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして」という言葉が書かれています。現代の口語訳をすると「月も春も、昔のままのものではないのでしょうか。私だけは去年のままであるのに(すべて変わってしまったように思えます。)」といった意味です。

描かれている絵は嵯峨本から模写をしたもので、それぞれにストーリーがあります。

例えばこれは昔は身分が高い素敵な女性だと思ったのに、今は侍女ではなく、豪快にご飯を自分で盛り付けるようになってしまって、かつての気品が失われたことに対して憂いている男性ですね。

K: え、そんなシーンあるんですか!面白い。

佐竹: これは太政大臣に梅の造花にキジを添えて、献上をしている様子ですね。造花だけに、いつでも咲くということで、主君の繁栄が季節など関係ないですと祝福の意をこめたシーンです。

K: なるほど、これは人生の中で起こる様々な喜怒哀楽を象徴的に描いたような作品ですね。書と絵が合わさり新たなメッセージを生む。書もイメージを膨らませるアートの一部なわけですよね。様々な要素が複雑に絡み合い、独特の感情を与えてくれると思います。

■書道が持つ可能性

K: 将来に向けてどんなことを考えているのですか?

佐竹: はい。将来は、デジタルを駆使した、日本の伝統工芸・文化のアミューズメントパークをつくりたいと考えています。書道だけに限らず、幅広い日本の伝統工芸・文化を取扱いたいと考えています。
デジタルを駆使したアートというと、何か最先端の流行といったイメージを思い浮かべると思いますが、私は日本の素晴らしい文化をどう残していくかという点にフォーカスしていて、それを伝えるための手法として考えています。
特に2020年のオリンピックに向けて、様々な日本文化を伝えるための準備が始まっています。そうした大きな流れの一つとして活動していくことを考えています。

K: 面白そうですね。具体的なイメージは?

佐竹: 具体例を挙げると、今構想を練っているのは、全国の伝統工芸をマッピングしたようなものです。それらに楽しみながら触れることのできる体験型の施設を考えています。
例えば、全国の工芸品を地図上に配置していって、それらを触ったりその職人さんとの関係性をデジタルの仕組みで見ることができたり…。また、その工芸品に投票をできるなど。色々考えています。専門家とコラボレーションをしながらこうした構想を実現していきたいと考えています。

K: ぜひ、夢を実現させてくださいね!ありがとうございました。

佐竹氏は、今まさに、2020年を目指して動いている真っ只中だ。

AIR SHODOUやデジタルを駆使した体験型の施設の構想は、これまで聞いた書道家としての活動を大きく超えているように見える。
デジタルに関しては専門知識が必要だが、実際に専門家とコラボレーションを検討中とのこと。実現する日はもうすぐそこだ。

しかし、その本質は揺らいでいない。脈々と受け継がれる伝統を壊さず、しかし、そのアウトラインを他の文化・技術と融合させることにより、しなやかに変化を遂げようとしている。
2020年、私たちはどんな「書道」を見るのだろうか?

<佐竹 燿華 Yoka Satake>
■プロフィール
書道歴28年
アートスクール銀座・南青山青山書画院等にて教鞭。
佐竹燿華書法学院を四ツ谷で運営。
ワークショップや自身の講座を通して書道を教える傍ら、国内外にて書道パフォーマンスを行い、多くの人に書道の魅力を伝え、文化交流に尽力している。

■Webサイト
https://japonism2020.com/

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