<Artist Interview:vol.1>
Kaoru Miyachi「Anchor」

31 Jan 2018

静かに語り掛けるような存在感。
声高に叫ぶわけでも、堂々と主張するわけでもない。

しかし、確かに存在し私たちに小さな声でささやいてくるような作品たち。
しっかりと自我を持ち、何か道のようなものを示す存在がそこにあった。

「Anchor(アンカー)」=「いかり」と題された展覧会。

想像力を掻き立てる13点の作品は3つのカテゴリに分けられ、心地よい空間の「OL by OSLO BREWING CO.」で展開された。

作家である宮地 薫氏へのインタビューを通して、あらたな写真の時代を追った。

宮地氏=宮地(敬称略)kaokoma=K 

K: そもそもなんですけど、ここはビアバーあるいはカフェですよね。
ギャラリーで展示するのではなく、今回このような展示形式を選んだのはなぜですか?
観客が周りにいて、あくまで自然に、作品と対峙するというわけでもなく
空間の中で”一緒にいる”、という感覚だと思いますが
こうした空間の作り方には何か理由はあったのですか?

宮地: この「OL by OSLO BREWING CO.(オル)」という空間は、
仰る通りカフェでありビアバーですが、そもそも飲食がメインなので、
お客さんはアート作品を見に来ているわけではないですよね。

でも、それが良かったのです。

アート作品をギャラリーや美術館で見るときは、集中して鑑賞したり、
その作品と一対一になれる良さはあるのですが、
今回私は、自分の作品をできるだけ多くの人に見てもらいたかったので、この場所で展示をしたいと思いました。

ギャラリーは、鑑賞を目的とした人が見に来る場所だと思います。私の今回の展示の目的は、不特定多数の人に見てもらい、偶然出会った人々からの感想や、反応を知りたいという思いがありました。
ある日、偶然出会ったブラジル出身の女性からは、私の作品(「黄櫨に染まる」を指差して)は、「すごく女性的な写真に見える。」と言われ、何日か後に別のアメリカ人の男性からは同じ作品を見て、「すごくセクシャルな作品だね!」と言われました。

自分の思いとは全く別の視点から物事を解釈してもらえることにとても大きな発見と嬉しさを感じました。
そういう話から、各国の文化や歴史の話をする。そんな、つながる会話をもてたのも、ここで展示させてもらえたからこそだと思いました。

K: 反応が興味深いですね。
作品がテーブルのすぐそばにあり、お客さんは何気なく作品に触れる。
そうすると作品について話題になりますよね。
その会話をあえて引き出したかった、ということですね。

この空間はインテリアもぬくもりあふれる感じですし、家のリビングにいるみたいでついつい長居をしてしまいますよね。
友達と喋ったり、仲のいいスタッフと会話しているうちに何となく時間が過ぎて。
そうすると、とても長い時間作品と一緒にいることになるわけですよね。
 
私も気付いたのですが、こうした空間の中で作品を見ていると、
いつの間にか、「見る」という行為を超えて、空間と一体化する感覚になりますよね。
モノ対人、という間にある壁がいつの間にか取っ払われて、すでにそこにある、というか空間と一体化しているというか。
なんていうか溶け込んでいるような感覚を感じる瞬間がありますよね。

宮地: そうなんです。作品が空間にあることで、その人の時間の中に入りこむという感じですね。
そうした空間を共にしていることまでも楽しんでもらいたいと思っています。
 
私は人と話すのが好きだし、その中で生まれる新たな発見をすることをとても嬉しく感じます。
なので、自分の作品と人もつながればいいなぁという思いがあります。

K: この作品「黄櫨に染まる」は?

宮地: この作品は大阪に住む祖父母の衣服が物語る人生を記録したものです。
「黄櫨」とは、古来より染め物につかわれてきた黄色の染料で、天皇が身につけるものなど、高貴なものに使われる染料です。
こうした色の位のように、祖父母の生きてきた人生そのものも尊敬に値する尊いものではないかと思い、このようなタイトルにしました。

洋服の糸のほつれやシミなども、祖父母が歩んできた物語の一部です。
そうした物語を写真の中に納めています。

K: 壁側の作品「BPM」は、額装がそれぞれ異なりますね。
これにはどんな意図が?

宮地: これは実は携帯電話で撮影しているんです。

K: え?そうなんですか?!
 
宮地: 今、みなさんスマホのカメラで日常的に写真を撮りますよね。
今の時代、簡単にスマホで写真家になれます。

美術館やギャラリーにある作品には敷居を高く感じるかもしれません。
でも、敷居を感じるのはその空間や、仕上げの具合によるものかもしれません。

そのモノが置かれている周囲の状況や仕上げ方ひとつで、私たちの見方は簡単に変わります。
私たちは無意識のうちにその環境に左右されているのかもしれません。
言い方を変えれば、意識を変えれば見方は簡単に変わるということも言えます。

同じ写真でもInstagramは身近ですが、美術館に写真展を見に行く、というと急にかしこまった印象になる。

どちらも写真であることは変わりなくて、そのツールや見せ方が違うだけなのに。

私はその心理的な現象自体を面白いと思っています。

なので、この作品によって色々な試みをしようとしているのです。

K:なるほど~。面白いですね。
ちなみに、元々写真を撮りはじめたきっかけは何なのですか?

宮地: 本格的にはじめたのは大学時代ですが、最初のきっかけは父がカナダ留学時に与えてくれたコンパクトデジカメなんです。留学中は見るもの触れるものすべてが新鮮で楽しく、カナダの日常を撮って記録していたのです。そうした何気ないものを撮る中で写真の面白さに引き込まれていきました。

K: 本格的に始めたのは大学在学中?

宮地: はい、大学在学中は写真部に入り、カラー写真を撮っていました。
写真学科なのに写真部なんですよ。(笑)

K: スゴイですね(笑)写真づくし。

宮地: 元々一つのことを突き詰める性格があって。
選んだ道は徹底して突き詰めて、一番を極めたいという欲もあります。
ですので、写真の道を選んでからはとにかくコンペで一番が取りたかったです(笑)。

K: え!コンペですか?
 へ~!なんだか意外ですね。

宮地:そうなんです。
ですからコンペで賞を取れる作品は何か、というのを突き詰めようとしていた時期もありました。

でも、ある時その目標と自分のありたい姿に乖離があることに気づいたのです。

今の時代、写真は誰でも撮れるわけです。
スマホで写真を撮って、InstagramやFacebook等でシェアできるわけです。
そして、みんなその中でいいねをしたり、フォロワーが増えたりしてる。
つまり、”評価”されている。
私も”いいね!”が欲しかったし、誰かに認められたい気持ちは当初はすごく強かったです。
けれど、だんだんそうした時代の中で、あえて写真家でいる意味ってなんだろう?とと思い始めて、コンペだけにフォーカスすることとは?とも考えてしまいました。もともとは、ただいい評価が欲しかっただけなのに。

そうして悩んでいた時に、NY出身の写真家であるジョック・スタージェスさんに作品のポートフォリオレビューをしていただく機会がありました。

その彼に作品を見せたときに、「あなたの作品はテーマが一貫しているけど、本格的に海外でチャレンジしようと思ったら、特にNYはもっと刺激的な作品じゃなくてはだめだ。この作品はもっと大きなプリントが合うよ」と言われました。

その時、大きな作品を作りたい気持ちはあったけど、お金の問題や作り上げること自体にも大変さがあることもわかっていましたので、少しそれに触れると、「でも、それって楽しいでしょ?」と。
その時に、そうか、純粋に楽しめばいいんだ。大変なこともリスクも、だからこそ楽しいしやる価値があるのだ、と今までネガティブになっていた気持ちが一気にひっくり返ったのです。

それで「いろんな人に見てもらいたい」という元々の想いと「もっと自分の作品を作ろう」という純粋な気持ちを再確認しました。
そしたら「賞を取りたい!」というだけの気持ちは収まりました。

K: そうなんですね。今までとても執着していたのに(笑)。
一つ視座が高くなったのですね。

宮地:はい。悩んでいたことがスーッとなくなっていった感じです。(笑)
でもその結論が出るまでの間、その自分の想いと乖離がなんなのかわからなかった4年ほどの間はとても精神的に苦痛でした。

でも今、こうして乗り越えて、新しい自分なりの方法を模索しています。
そのことがとても楽しくてわくわくします。

K: これからは?

宮地: これからは、作品展をまた定期的に開催したいです。
次はギャラリーでの展示もしてみたいなぁと。
あとは、やっぱりコンペにも挑戦したい思いがあります。(笑)
これまでとは違って、今は自分のこともはっきりとしてきているので、挑戦することによって、前よりいい影響を与えてもらえるのではないかと思っています。
そういう色々な手段で作品を提示していく中で、作品と自分の考えをよりはっきりと明確に高めていけたらと思っています。

宮地 薫
https://www.kaorumiyachi.com/

写真家 / 1990年大阪生まれ、愛知育ち。
東京工芸大学写真学科卒業後、スタジオ業務を経て、現在都内を拠点に活動。
第 9 回「1_WALL」入選。近年の個展:「Guiding Star」(2015 年、Calo・大阪)

これまでの主な作品:『No one is an island』『暖かい呼吸』『黄櫨に染まる』 

作品『No one is an island』では、高校時に留学していたホストファミリーに再会し、再確認した「人は人によって生かされている」ということを彼らの家族の形を見て感じ、彼らの生活しているそのままをカメラに収め、『暖かい呼吸』では、大阪に住む祖母を約2年間撮影し続け彼女の生きる姿勢から見えた、美しさや、尊さ、強さを、写真をとり続けるなかでテーマとし、与えられた命を大切に生きる様子を写真に収めた。​『黄櫨に染まる』では、祖父母が当時身につけていた衣服を、記憶の回想をテーマに撮影。シワや糸のほつれなどにフォーカスし、祖父母の衣服から発せられる物語を記録しようと試みた。

また、ライフワークとして、「素敵な大人になる方法」を探るべく、日常生活で巡り会う人々に取材をし、そのストーリーを写真を交えて制作し冊子にする取り組みを行っている。

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Kaoru Miyachi
https://www.kaorumiyachi.com/

Photographer / 1990 Born in Osaka and raised in Aichi prefecture. Lives and works in Tokyo, Japan.

BA in Photography at Tokyo Polytechnic University. After working in studio as an assistant, she started her career as an independent photographer. Recent Exhibition: “Guiding Star” 2015, Calo, Osaka. Editorial work: No one is an island (’10), Warm Lights (’13), Becoming Yellow (’14), Hello Journal (’16).

From “No one is an island”, She visited her host family who have taken care of her for a year when she was 16, and looks back the fact that human beings do not thrive when isolated from others. Trough making “warm Lights “, She keeps capturing her grand mother’s lives for 2 years, and showing her stalwart heart. And “Becoming yellow” try to recall memory, trough taking her grand parents’s clothes. For her lifework, to looking the answer for her main theme of lives “How to aging gracefully”, interviewing to persons who she meets during her life, and captures them and makes ZINEs with articles.


※この展覧会は終了しました。

OL by OSLO BREWING CO.

LOCATION
37-10 Udagawa-cho
Shibuya, Tokyo

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